アジア人の下眼瞼の顕微解剖学

今年は12月まで、柿崎裕彦先生の眼瞼下垂に関する研究成果の中から話題を提供していこうと思いますので、よろしくお願い致します。

今回ご紹介する研究は、アジアの下眼瞼の顕微解剖学的特徴を解明することを目的として行われ、73-96歳で死亡した11体のアジア人の検体の19枚の下眼瞼から採取した下眼瞼の全層が、10%中性ホルマリンに固定され、中央部の矢状縫合のスライスされた切片が、前処理の後、トリクローム染色され、微視的に研究されました。

結果は、以下の通りでした。
(1)カプスロパルベブラル筋膜(CPF)(※1)への眼窩隔膜の明確な結合は、7枚の眼窩隔膜が明白に染色されたまぶたで確認されました。
しかしながら、他の12枚のまぶたは明確な結合を示さず、眼窩隔膜の前部の結合部は、はっきりした特徴がなく、後部も不明瞭でした。

(2)眼輪筋と眼窩隔膜の間には、はっきりと異なる層がありました。

(3)下側の瞼板へのCPFの後部への接合は、すべてのまぶたで見られました。

(4)19枚のまぶたのうち17枚には、瞼板の前面でCPFへの接合があり、瞼板前部の眼輪筋によるCPFの拡張が観察されました。

(5)すべてのまぶたは、瞼板前部の眼輪筋を経たCPFの前部の拡張という構造をしており、それは瞼板前部の眼輪筋の上に重なっていました。

この研究において、特に筋膜の構成要素におけるアジア人の下眼瞼の顕微解剖学的な構造は、アジア人でない人のまぶたとほとんど同じであることが明らかになりました。しかしながら、隔壁融合が明確であるのか不明瞭であるのかということと、前部及び上部の眼窩脂肪体の突起部および瞼板前部の眼輪筋で重なっているものに相違がありました。

医学に限ったことではありませんが、このように、微細に民族間の解剖学的共通点と相違点を分析していくことは、その後の統合(この場合は、手術)の完成度を高めることへと結びついていきます。

※1:カプスロパルベブラル筋膜
目の話題「明確な二重の層によって構成される下眼瞼牽引筋」の脚注※3をご参照下さい。

引用文献:
Ophthal Plast Reconstr Surg. 2006 Nov-Dec;22(6):430-3.