明確な二重の層によって構成される下眼瞼牽引筋

今月は、2006年12月に発表された眼瞼下垂に関する解剖学的な論文をご紹介いたします。

この研究は、下眼瞼牽引筋の構成が、単層からなるのか多層から成るのかを調べることを目的として行われ、眼瞼内反手術中の44人の患者の51枚の下眼瞼牽引筋、および5体の東洋人の検体の10枚の下眼瞼が、肉眼で観察されました。
また、12体の東洋人の20枚の検視後の下眼瞼から取り出した標本は、微視的な観察に使用されました。

生体からの標本は、眼瞼内反手術中に、肉眼的に下眼瞼牽引筋の2つの層を切開して収集され、また、検体の下眼瞼は、さらに下眼瞼牽引筋とロックウッド靭帯(※1)の関係を研究するために使用されました。

そして、検体の下眼瞼の中央部の矢状縫合の全層の切片は、トリクローム染色によって三色に染色され、微視的に研究されました。

結果、下眼瞼牽引筋は、簡単に二層に分離されていることが分かりました。
まず、肉眼によって、前層は、ロックウッド靭帯から継続する粗い組織として明確に観察され、それは下側の眼窩隔膜(※2)と連結した下側の筋膜を構成していました。
また、 後層は、表面に光沢のある濃厚な繊維のシートであるように見えました。

そして、微視的にも、下眼瞼牽引筋は、明確な二重の層から構成されており、粗い線維組織の前層は、下眼瞼の前部の構造に連続した眼輪筋下筋膜層、眼窩隔膜、また、カプスロパルベブラル筋膜(※3)の浅部から構成されていました。また、後層は、瞼板につながる平滑筋と一体となったカプスロパルベブラル筋膜の濃厚な繊維から構成されていました。

つまり、下眼瞼牽引筋は明確な二重の層から構成されており、平滑筋を含んでいる後部の緻密層は、下眼瞼牽引筋を牽引する主な構成要素であると結論づけています。

この柿崎裕彦先生の論文の研究成果は、2012年1月のトピックスでご紹介した研究へと発展して行きました。
2012年1月のトピックスへ

※1:ロックウッド靭帯
眼球を吊るすハンモック上の靱帯のことです。

※2:眼窩隔膜
当院ホームページ→学会・論文→論文→「上眼瞼の臨床解剖」のコーナーをご参照下さい。
上眼瞼の臨床解剖のコーナーへ

※3:カプスロパルベブラル筋膜
眼輪筋前瞼板部と前隔膜部の間を通り真皮に向かう筋膜のこと。のう眼瞼筋膜ともいう。


引用文献:
Ophthalmology. 2006 Dec;113(12):2346-50. Epub 2006 Sep 25.