白人と東洋人の下眼瞼牽引筋の類似性について

今回は、久しぶりに眼瞼下垂に関する話題です。

今回ご紹介する論文は、柿崎裕彦先生が執筆し、2009年5月に発表されたものです。

これまで、下眼瞼牽引筋の正確な解剖学的分析について、様々な見解が示されてきました。過去の研究において、東洋人の下眼瞼牽引筋がハッキリとした二つの層からなることは、すでに確認されています。この二つの層を同定できたことにより、東洋人の眼瞼の手術をする際の標的となる部位を、高い精度で定められるようになりました。また、手術部位の周辺構造の崩壊を減少させるという効果をもたらします。

実際、この考え方に基づいて改良された手術があります。下眼瞼内反、逆眼瞼下垂や下眼瞼後退に対して施行され、良い治療成績を得ています。

一方で、白人と東洋人の眼瞼の解剖学的構造には、解剖学的多様性があることは、広く認識されています。下眼瞼牽引筋は二層からなるという概念と、それを応用して改良された手術が白人にも適用できるかどうかはわかりませんでした。

そこで、この研究では、下眼瞼の微視的な解剖学的構造、とりわけ、白人の下眼瞼牽引筋は、一層からなるのか、二層からなるのかについて、7体の検体を用いて調査されました。

結果は、白人の下眼瞼牽引筋も明瞭な二重層から成るというものでした。
東洋人の眼瞼の手術のために改良された手術手技は、白人にも応用できるということです。

著者は、この研究の組織学的所見に加えて、更に、白人におけるこれらの発見の巨視的、解剖学的検証が必要であるとしているものの、ここで又一つ、日本人研究者による研究が、医療の時間の針を一つ進めることに貢献したことは、間違いないでしょう。


引用文献:Ophthalmology. 2009 Jul;116(7):1402-4. Epub 2009 May 8.
Lower eyelid retractors in Caucasians.