緑内障と高血圧・アルコール・喫煙との関係
現在、高血圧や喫煙習慣、また、アルコール摂取が緑内障を進行させる、もしくはそれによって、緑内障の発症率が上がるのか、ということについて明らかな科学的根拠はありません。
このような状況下で、その関連性についての知見を一歩進める研究の成果が7月に発表されました。遺伝子レベルの話ですので、少々難しいかもしれませんが、興味深い研究ですので、ご紹介したいと思います。
この研究は、遺伝子の異型(※1)によって、高血圧、アルコール摂取量、および喫煙と原発開放隅角緑内障(POAG)を関連づけられるか、ということを検証したものです。
40歳以上の白人を対象とし、527人のPOAGと診断されたことがある患者群と1539人の対象群において比較され、2年ごとに、追跡調査されました。
結果は、以下の通りです。
(1)高血圧とPOAGとの関係はT-786C SNP(※2)という遺伝子の異型に因ります。
また、高血圧のないTT同型接合体(※3)という対立遺伝子(※4)を持つ人と比べて、高血圧があるTT同型接合体を持つ人はPOAGになるリスクがかなり高いことがわかりました。
(2)非喫煙者のrs7830 tagging SNP(※2) を伴うCC同型接合体という対立遺伝子を持つ人と比べて、喫煙者、もしくは喫煙歴のあるCC同型接合体を持つ人は、POAGになるリスクが高まることがわかりました。
しかしながら、変異型対立遺伝子(A)を持つ人においては、喫煙とPOAGは関連づけられず、また、アルコール摂取量との相互作用も見られませんでした。
以上より、高血圧および喫煙によりPOAGになるリスクが高まるかは、T-786C SNPとrs7830 tagging SNPによる、と結論づけています。
勿論これは、白人における研究結果ですので、そのまま日本人に当てはめるわけには行きませんし、今後、異論が出てくるかもしれません。しかしながら、このような研究が日本人を対象として進めば、緑内障を患っている患者さんの中で、高血圧の治療をしっかりしなければならない人、禁煙が望ましい人などを特定でき、よりきめ細かい治療の実現につながることと思われます。
※1:異型
形や型が普通とは変わっているもののこと。
※2:SNP(単一ヌクレオチド(塩基)多形)
生体機能を支えているタンパク質の遺伝子は4種類のヌクレオチドが連なった構造となっている。その並び方(配列)は誰でもほとんど同じだが、ある頻度で配列が変わっている場合がある。通常、1個のヌクレオチドが別のヌクレオチドに置き換わっているため、それを単一ヌクレオチド多型 (single nucleotide polymorphism, SNP:複数形でSNPs)という。
ここで言う「T-786C」「rs7830 tagging」は、SNPのタイプのこと。
※3:同型接合体
同じ対立遺伝子を持つ一組のゲノム(遺伝子情報)を同型(ホモ)接合体、異なった対立遺伝子を持つ一組のゲノムを異型(ヘテロ)接合体という。
※4:対立遺伝子
相互に区別できる遺伝子の変異体で同一の遺伝子座にあるものをいう.突然変異などが原因となってできる。発現の強弱を優性,劣性といって区別する。
引用文献:
Endothelial nitric oxide synthase gene variants and primary open-angle glaucoma: interactions with hypertension, alcohol intake, and cigarette smoking.
Kang JH, Wiggs JL, Rosner BA, Haines J, Abdrabou W, Pasquale LR.
Arch Ophthalmol. 2011 Jun;129(6):773-80.