緑内障の治療を受けた患者さんの視野狭窄進行リスク
最近の緑内障の診断と治療の進歩は目覚しく、以前のような「緑内障=失明」という概念は古くなりつつあります。しかしながら、緑内障の治療を受けたにもかかわらず、視野の一部が見えない状態(視野狭窄)が進行する例もあります。2011年5月、この様な患者さんのリスク要因について検討した研究の成果が、論文として発表になりました。
この研究は、1999年1月から2009年9月の約10年間、587人の緑内障の治療を受けた患者さんの587眼を対照として、視野狭窄の進行と眼圧依存因子及び眼圧非依存因子の関連について検討され、以下の結果を得ました。
◯視野狭窄進行のリスクの増加と関連している要因
・老齢であること
・落屑症候群(※1)を併発していること
・中央角膜厚の減少
・視神経乳頭からの出血
・ベータ・ゾーン網脈絡膜萎縮(※2)の存在
・すべての眼圧に関するパラメーター(平均眼圧、最高眼圧、眼圧の変動)
◯視野狭窄進行と直接関連している要因
・最高眼圧
・薄い中央角膜厚
・視神経乳頭(※3)からの出血
・ベータ・ゾーン網脈絡膜萎縮の存在
以上の結果より、平均眼圧や眼圧の変動以上に、最高眼圧は視野狭窄の進行を知る手がかりになる、と結論づけています。
緑内障を治療中の患者さんにおかれては、可能なかぎり最高眼圧をチェックしておく必要がありそうです。
※1:落屑症候群
50歳以上の中高齢者の水晶体表面にふけ様の沈着物がみられ、縁内障などをおこし、高齢者の失明原因として重要な疾患です。落屑症候群は、早くから人口の高齢化が進んだ北欧に特有な疾患として知られていたが、近年わが国でも高頻度にみられるようになってきています。
※2:網脈絡膜萎縮
網膜とその下にある脈絡膜が萎縮(構造が変化して縮まった状態)したものです。部分的なものであれば問題ありませんが、眼底の中心部だったり全体に広がったりしたものでは視力低下の原因になります。
※3:視神経乳頭
視神経乳頭とは、網膜の神経線維が集まっているところをいいます。この視神経乳頭の外観上の変化をみることが、緑内障の早期発見につながる場合もあります。
引用文献:
Risk factors for visual field progression in treated glaucoma.
De Moraes CG, Juthani VJ, Liebmann JM, Teng CC, Tello C, Susanna R Jr, Ritch R.
Arch Ophthalmol. 2011 May;129(5):562-8.