角膜ヒステリシスと緑内障

ヒステリシスとは、物質の状態が、現在の条件だけでなく、過去の経路の影響を受ける現象の事を言います。つまり、加える力を最初の状態のときと同じに戻しても、状態が完全には戻らないことを指します。例えば、一定の力を加えると20cmに縮むバネに、同じ力を加え続けると15cmまで縮むようになる状態のことなどを言います。
単にヒステリシスといった場合、特に磁気ヒステリシスをさしますが、固体の弾性変形などについても言われており、最近は眼科学においても角膜のヒステリシスが注目されています。

 2011年4月、その角膜ヒステリシスと緑内障との関連についての中国における研究の内容が発表されました。

 この研究は、443人の被験者を対照として行われた大規模な研究で、以下のそれぞれの群間における角膜ヒステリシスを比較しています。
・手術歴のない原発閉塞隅角緑内障患者(以下PACG)群131人
・手術歴のない原発開放隅角緑内障患者(以下POAG)群162人
・健常者(以下コントロール)群150人

 結果は、PACG眼とPOAG眼における角膜ヒステリシスは、コントロール眼と比べて低く、更に年令、性別、およびゴールドマン圧平眼圧計による眼圧測定の補正を加えた後の角膜ヒステリシスは、PACG眼のみ、コントロール眼より低い、という事になりました。角膜ヒステリシスが低いということは、角膜の生体力学的特性の何らかが変化している可能性があるということになります。

 このように緑内障、及びそのタイプと角膜などの周辺組織の状態との関連の解明が進むことも、今後のPACGの患者さんのより良い治療法の開発につながると期待されます。また、この研究は、今後も継続して調査される予定ですので、それぞれの群における時間経過に伴う角膜ヒステリシスの変化など、今後の研究成果についても大いに期待されます。


引用文献:
Comparison of ocular response analyzer parameters in chinese subjects with primary angle-closure and primary open-angle glaucoma.
Narayanaswamy A, Su DH, Baskaran M, Tan AC, Nongpiur ME, Htoon HM, Wong TY, Aung T.
Arch Ophthalmol. 2011 Apr;129(4):429-34.