メノポーズ(更年期)世代の私

昨年、当院で白内障の手術を受けられた患者様が書かれた作品をご紹介させていただきたいと思います。この作品はある同人誌に掲載されていたもので、患者様の御許可をいただいております。
 これから手術を受けられる、または考えておられる方、ご参考にされてみては如何でしょうか。


〜〜 メノポーズ(更年期)世代の私 〜〜


五十嵐 武子


 ここまでメノポーズと称して、更年期を引っ張って来た私に、洒落にならない事が起こった。
 それは、眼科に診察に行って「これは白内障です。」と言われた時、言葉を失ってしまった。説明をされても、合点出来なかった。
 「白内障って、お年寄りの罹る目の病気ですか?」
 なんだかすぐには信じられなくて、診察室を出てから、看護婦さんにそっと尋ねた。
 「今では、四十代の方でも白内障に罹る人がいるんですよ。」
 「ヘェー。四十代で……それに比べれば、私は五十代も後半だし、なっても不思議はないのか……。それにしても今日来るんじゃなかった。」
 と、いつもの自分らしくなくガックリ気落ちして、呟いてしまった。
 七月二十四日は私の五十七才の誕生日で、気になる所を診てもらって、十才引いて、若々しく頑張らなくちゃあと意気込んで来たのだ。あまりのショックに娘に電話をした。
「忘れられない日になったね。でも何でだいたい誕生日を選んで診察に行ったの?」と聞かれ、右目の視力が下がってぼやけること、最近特に太陽光線や車のライトがひどく眩しく見える事等を話したら、
 「良かったじゃないの原因が解って、これから治療すればいい方向に行くんだから。そう気落ちしないで!!まずはお誕生日おめでとう!!」
 「そうだね!!」
 最後に二人で大笑いしてしまった。
 彼女は元看護婦だから、物事をてきぱきと決めて整理して決着を付けてくれる。
 気持ちの整理をして、落着いてから家族に話をした。
 「うーん。白内障だったのかあ。それで目薬で良くなるのか?」
 「手術を勧められたが、一ヶ月目薬を付けて様子を見たいと言って来た。」
 手術ともなれば、職場を休まなければならないし、家族の生活のこともあるし……何かどっと重い物を背負ったような気がした。
 何故、どうして、の疑問がいつまでも残って、手術まで自分を追い込むことが出来ないでいた。
 しかし、西日に向かってスクーターを走らせる眩しさは尋常ではなかった。
 白内障とは?
 「目の中のレンズが濁る病気が白内障です。視力が低下して霞んで見える。明るいところへ出ると眩しく見にくい。どんなに調整しても眼鏡があわない。ぼやけて二重、三重に見える。」
 全てが当てはまっていて、このままの状態では仕事を続けることは出来ない。
 右目が進行しているので手術を勧められた。左目はまだ軽く、今は大丈夫だが、いずれは手術の必要を感じるようになるから、同時に受けた方が良いのではないか。
 お医者さんの言った言葉を何度も思い出しては考えていた。

七月三十一日
娘から分厚い郵便物が届いた。

 お母さんへ

 パソコンで調べ、一番分かりやすいものを印刷しました。手術の方法は病院によって違うと思うので、通う病院に良く聞いた方がいいと思います。手術は日常生活に支障が大きく出ていないなら急がなくてもいいと思います。点眼薬と食事で予防して進行を食い止めておいて様子を見ていればいいと思います。
 一応資料に予防食品と手術を受ける時期の目安にアンケートがついているので見て下さい。あと糖尿病とかの合併疾患も心配なので検診してみてはどうでしょうか。老人性とは限らないので。これを機に、自分の健康管理に気を配ってみて下さい。とりあえず、落ちこまずに頑張りましょう。バイクの運転は十分注意して下さいね。

妙子

 この手紙と一緒に、カラーコピーの説明付きで、二十枚にも渡るものであった。
 白内障とはどんな病気なのですか?から始まって、症状、原因、治療方法、予防、そして、どんな手術をするの?必要な検査は?入院は必要ですか?手術の費用、手術は痛いのですか?手術時の注意事項、手術後の日常生活、術後の眼鏡について、
 私の知りたいと思っていた情報がすべて掲載されていたのには驚いた。
 感謝の電話をすると、「健ちゃんがインターネットで調べてくれたんだ。それをコピーするのにちょっと大変だったんだよ。役に立って良かったって言ってるよ。」
 娘婿の親切に感激した。
 「白内障で最も多いのは加齢に伴う老人性白内障です。目の老化で白内障が発症しますが、60才代で70%、70才代で90%、80才以上になるとほぼ 100%の人に白内障による視力低下が認められます。目の外傷、アトピー性皮膚炎、糖尿病、栄養失調などでは若いうちからの発症が多いことが知られています。
 その他にも遺伝、放射線や赤外線照射、ステロイド剤などの副作用などの目の病気による続発性白内障に進行しやすい傾向があります。生まれつきに水晶体の濁りのある先天性白内障の場合もあります。」
 治療方針としては「いったん白内障が進行して水晶体が混濁すると薬などで元の透明性を回復することはできません。したがって、手術以外に視力を回復する手段はありません。白内障が軽度であまり視力に影響のない場合は点眼薬や内服薬による進行予防を行います。」
 ここまで読んで、なるほどと合点した。
 糖尿病の心配はないので、まず点眼薬を続け、バランスの良い食事を心掛け、強い紫外線を避けるためサングラスを掛ける。
 この事を実行しようと思った。白内障を防ぐといわれる食品は、ビタミンE、大豆、玄米、植物油、ごま、うなぎなど、ビタミンB2のり、レバー、納豆、鶏卵、いわしなど、ビタミンC緑黄野菜、いも、柑橘類など。
 助長すると言われる食品は、古い油を使った揚げ物、古い魚の干物などが上げられた。
 もったいない等と何度も古い油を使ってはいけないのだと、痛感した。
 九月三日に夫付添いで、手術のための検査に出向いた。
 勤務して三十数年、出産以外は長期休暇の経験のない私は、手術のための入院とその後のケアについて考えると不安であった。
 「進行している右目だけにしようかな?」
 その想いをズーッと引き摺っていた。
 全ての検査が終了した。
 その時点で、主治医からお話があった。
 手術日を九月十八日右目、二十一日に左目を予定しておきますが、右目を手術してその結果を見て左目の手術を決められていいんですよ。強制はしませんが、片方だけ手術をした人の体験を聞くと目がちんばの状態になるので不都合で見にくいので再度入院される方がおります。一応申し込みを両方されていて、片方は取り消しされるのは一向に構いません。」
 こちらの心配を汲んでお話下さったことを感謝した。
 「結果を見てから決めればよい」…… この決定は私を安心させた。

 九月十五日、夫と二人で肘折温泉に行った。「手術をすると、しばらくは温泉に入れなくなるから…。手術すると今よりもっと良い状態になるのだから、もっと明るい、楽しい積極的な事を考えた方がいいよ。不安なのは解るけど、良くなる為の手術なんだから。」
 そう夫に言われて、パッと目の前が明るくなった。
 「そうだった。良くなるのよ。良くなって元気に働けるようになるのよ。後はみんな、おまかせで、よろしくお願いします。」
 「単純でいいね。しばらくは休養を取ったと思ってゆっくりした方がいいよ。こっちは大変だけど。入院の日は行けないけれど、手術日には休みを取って行くから、まず、頑張って下さい。」
 「どうもありがとう。安心した。」
 こころも体もゆったりと温かくなった。
 九月十七日の入院日には、二週間分の入院予定の荷物をバックと衣装ケースに入れ用意して、眼科で用意して下さった車で、山形へ向かった。
 一緒に三人同乗した。
 「見たとこ若いのに、白内障になったの」
又、言われてしまった。
 今まで何人に同じ事を言われて来たか知れなかった。苦笑して「そうです。」と答えるしかなかった。
 4階の病棟の食堂で入院診療計画書に基づいて看護婦さんより説明を受けた。若くてやさしい方で、病棟全体が清潔で明るく気持ち良い感じを受けた。
 病室が7号室、4人部屋で入室すると隣の方が、
「白内障ですか?大丈夫簡単だから心配ないよ。あんた、幸せな顔してるねえ。」
「エッ?幸せかなあ。そうだなあ。幸せの方かもしれないなあ。」
 面くらいながら独り言。
 いきなり知らない方に「幸せそうだ」と言われ、明日手術を受ける身には複雑である。
 手術が出来て、目がハッキリ見える様になることは、幸せなことである。勤務医の院長や同僚の快い承諾も得て、家族の協力も有り恵まれた環境に置かれている我が身を改めて感ぜずにはいられなかった。入院も悪くないなと思いながら、荷物整理をした。
 手術後翌日から、「目の保護を目的に眼帯のかわりとして、サングラスを使用して頂きますので、準備して下さい」と言われ、メガネ店の方が色々持参したサングラスは、黒いものもあったが、淡い色の女性向のお洒落なもので、その中から小振りの淡い栗色のサングラスを求めた。