眼科眼底健診について

この10年近く眼底写真から網膜細小動静脈の高血圧性変化(H変化)と動脈硬化性変化(S変化)の程度分類をしています。そして特に感じていることが4つあります。
 第1点はH変化、S変化ともに昔に比べて軽くなっているということです。特に?L度に分類される患者さんははっきり減少しているのがわかります。眼底検査をする対象年齢が毎年毎年上がっていること(老人の平均年齢が増えていること)も考えれば、眼底所見が良くなっているのは明らかで、日本人の寿命が長くなったのもむベなるかなと思います。
 第2点は読影する方法ですが、医師がダブルチェックを行うことになっており、しかもその組み合わせがアトランダムに定期的に変わるようになっていますので、それはそれとしていいのですが、医師による読影のバラつきが生じないように?J度、?K度、?L度に分類する基準を余り細かく分けないで、何か明確な所見を一つだけ限定して程度分類してはどうかとこの頃よく感じています。(山大眼科の山下教授が最近紹介されている「普通眼底所見だけから出来る糖尿病の臨床的分類」と同じ考え方を取り入れてはどうかということです)
 第3点は、内科的所見がなく眼科の異常所見だけで眼科を受診される患者さんも多いので考えているのですが、現在の指導内容が少し合わないように思います。ここに指導内容は書きませんが、それを以下のように改めてはどうでしょうか。
 即ち、指導区分で「区分0の異常を認めず、O」である「所見H-0,S-0」は眼科受診の必要なしとする。
 次に「区分?Jの要観察A」である、「所見H-1,S-0、H-0,S-1、H-1,S-1」も眼科受診の必要なしとする。
 「区分?Kの要指導B」である、「所見H-2,S-0、H-2,S-1、H-0,S-2、H-1,S-2、H-2,S-2」は受診時再検査でも同じ所見であれば、同年度内の受診は不要であるとする。万一、心配であれば、半年後再検とする・
 そして第4の点は、今は眼底検診は循環器検診だけでなく地域ごとの成人病健診や会社毎の年1回の健康診断とか、地域の開業医の先生の依頼によってする眼底診断などいろいろものが眼底フィルムの中に混ざってきますので、血管系の所見を診るだけでなく乳頭所見、黄斑部所見、網膜静脈枝血栓症、その他必要な所見を指摘すべきではないだろうかということです。この点については眼底検診が循環器検診の一項目として取り上げられた経緯も考えると、問題のある点かもしれません。しかし例えば、乳頭所見から緑内障が明らかに診断されることがあり、この場合は乳頭の循環障害ですから、循環系の異常であると解釈されるように思いますし、数年に渡って緑内障所見を見落とせば、読影した医師が緑内障を見逃したといって訴えられる危険があります。眼科医としては大変心配な所です。
 循環器検診における眼底検査は、そもそも高血圧症、動脈硬化症の診断補助として行われてきたものですが、現在は糖尿病の診断補助の方にウエイトが移動してきているのではないでしょうか。その意味でも緑内障をスクリーニングすることは眼科医にとって重要なことであるように思います。これらの点について眼科の先生からご意見がいただければ大変嬉しく思います。
 最後にこのホームページを読んでいる一般読者の方に申し上げます。スクリーニング(一次検診)は、原則として疑いのある者は選び出すことにしているので洩れはありませんから御心配なさらないで下さい。
 最近日本の医療費が切迫してきて、余り検査をし過ぎないようにと云われています。現在、日本の総医療費は、世界で高い方から18番目(対GNP比)で、まだまだ高い方ではないですし、第一その前に道路公団のような経費の無駄使いを解消する方が先だと思うのですが皆さん如何お考えでしょうか。