眼瞼痙攣に対する「ボトックス皮下分注療法」は危険か
ボトックス治療の患者さんが延べ人数で160人(2月末現在)になった現在でも「注射は本当に危険はないか」とか「何回もやっているとそのうちまぶたが麻痺して動かなくなるようなことはないか」とよく聞かれます。また充分に説明した後でも初回注射の時は緊張して固くなっている人が時々いますので「やはり心配なんだ」と思ってしまいます。
確かにボトックス毒素は史上最強の生態毒です。名前からして毒素というのですからあまり気持ちよくありません。1gで東京都民全員を殺傷できると言われ、実際湾岸戦争ではイラクのサダム・フセイン大統領がイラク北部のクルド族を迫害するために使用したといわれます。(そのためにもイラクはならず者国家入れられているのです)
1992年米国マディソンで開かれた第1回ボツリヌス毒素学会の夕食会での席上のこと「ボツリヌス毒素の一人あたりの本当の致死量はいくらか」という議論が始まり、みんなアルコールが入っていたためか諸説百出して収拾がつかなくなった時に、誰かが大声で「イラク大学のサダム・フセイン教授に聞けば解る」と叫び、一件落着したという笑話があります。
昔から「薬と毒は紙一重」といわれます。ボツリヌスもその好例です。しかし本当は紙一重ではないのです。人の致死量は実験できないので不明ですが、筋肉注射した場合は3500~500000単位と考えられています。
当院で現在で用いる1回量は、15~30単位ですから一番慎重にみても100倍以上の安全域があることになります。他の強い薬、(例えばジギタリス)にもっと危険な薬はいくらでもあるのです。ボツリヌス治療では1本に100単位入ったものが治療する時に、そのひとの分だけ東京から送られてきます。従ってアンプルに入ったものを30~40本注射しなければ死なない計算でそんなことは考えられません。ご安心下さい。