両側眼瞼

2001年7月27日(金曜日)の山形新聞に、眼瞼けいれんについて井出眼科病院のアドバイスが掲載されましたので、山形新聞社の了解を得て転載いたします。

 六月一日付のこの欄で「片側顔面けいれん」の話が載ったのを覚えている人も多いと思います。今回はそれによく似た「両側眼瞼(がんけん)けいれん」の話です。
 まず、「眼瞼けいれん」という言葉からまぶたがビクビクしている状態を想像して、すぐに分かると思われがちですが、実際はそう簡単ではありません。というのは、まぶたがビクビクする状態は「片側顔面けいれん」では必ずみられますが「眼瞼けいれん」では必ずしも見られるものではないからです。
 「眼瞼けいれん」の患者さんは「目を開けていられない」とか、「まばたきが多くて自分でも困る」ということがあっても、まぶたがビクビクするとはあまり言いません。もっとも重症になると目を開けようとするとまぶたが震えるばかりで(これがけいれんと呼ばれる理由なのですが)目が開けられません。しかし大多数の軽い患者さんは、ちょっと見たところ全く正常です。
 患者さんに共通する悩みをもう少し詳しく説明すれば、「必要な時に目を開けていられない」「目をつぶっていたくなる」あるいは「つい下を向いている時間が長くなる」など。また、ほぼ100%の患者さんが「まぶしい」と言いますが、これは本当にまぶしいのではなく「まぶしい感じがして目を開けていられない」のです。
 そこで検査法ですが、お茶ノ水井上眼科病院の若倉雅登先生は▽できるだけ軽く十回パチパチする▽速い切れのよいパチパチを十回する▽できるだけ強く目を閉じてすぐ開ける動作を十回する―、この三種類のテストをしてみることを勧めています。そうすると、ちょっと見ただけでは何ともなくとも、どれかの“パチパチ運動”で異常が出てきます。
 次に治療法ですが、「片側顔面けいれん」と違って「両側眼瞼けいれん」はまだ原因が分かっていませんので治療も根本的な方法ではなく、症状を抑えることになります。それには内服、注射、手術の三つの方法があります。内服で抗パーキンソン薬に少し効くものがありますが、今ではA型ボツリヌス毒製剤の皮下注射が最もよく効きます。注射後二、三日すると目が開けられるようになり、一緒に住んでいる家族の人は非常によく治ったといいますが、意外と患者さんの満足度は100%とはいきません。

 「注射した場所がまだけいれんしたがってる」とか、「今度は注射した周りがつっぱる」などと言います。しかし生活が楽になったことは認めますし、その時、精神安定剤を内服しますと気分が紛れる患者さんが大部分です。注射に加えて手術では弛緩(しかん)したまぶたの皮膚やまぶたを閉じる筋肉を切除したりします。
 「眼瞼けいれん」は、診察室でちょっと拝見したときは何でもないように見えても、患者さんは生活していく上で非常に困っている人が少なくないので、私たち眼科医も訴えをよく聞き、診断に時間をかけ、見落とししないように心掛けています。