眼瞼けいれんをボツリヌス菌を利用して治療する

2001年2月19日(月曜日)の山形新聞に、眼瞼けいれんをボツリヌス菌を利用して治療する井出眼科病院が紹介されましたので、山形新聞社の了解を得て転載いたします。

まぶたの筋肉がピクピクして目が開きにくくなる「眼瞼(がんけん)けいれん」、片方の目の周りの筋肉が収縮して引きつった表情になる「片側(へんそく)顔面けいれん」の症状を緩和する治療法として、食中毒菌のA型ボツリヌス毒素を患部に注射する療法が注目されている。手術以外の治療は難しいとされてきたが、この療法は高い治療効果を挙げており、県内でも七つの医療機関で実施している。一回の注射で三、四カ月間は効き目があるという。

 従来の治療は、神経と脳血管の接触を離す開頭手術のほか、手術に抵抗がある人や症状の軽い人には精神安定剤や抗けいれん剤などの薬を処方する。投薬について山形市立病院済生館神経内科の小林和夫部長は「効く人もいるが、効果がない人の方が多い」と話す。
 ボツリヌス療法の場合、けいれんが起きる周辺五、六カ所にごく微量のボツリヌス毒素を注射すると、けいれんを生じさせている神経の働きを抑え、早げれば翌日から効果が現れるという。小林部長は「去年夏から八人に治療を施し、九〇%の効果があった」と話す。九七年から、この療法を取り入れている山形市の井出眼科病院の井出醇院長は「これまで六十回以上処方したが、ほとんどの人に効果があった」と評価。現時点では最も簡単で有効な治療とみられる。

 一方で、費用の問題もある。この療法は米国で開発され、眼瞼けいれんは一九九七年、片側顔面けいれんは去年四月から健康保険適用薬に承認されたが、一回の費用は二、三万円。効果が三、四カ月で切れるため、定期的に注射するとなると負担は重い。猛毒とあって、一回の治療で注射液を使い切れない場合は化学処理して廃棄する決まり。井出院長は「一人当たり一本全部使わない場合が多い。残りをほかの人に使うことは禁止されているので、半分の量の注射液が発売されれば患者負担が安くて済むのだが・・・」と話す。

 県内で唯一、片側額面けいれんの開頭手術を実施している山形大医学部では、年間約三十人が受診し、うち十人ほどが脳外科で手術を受ける。退院するまで早くても二週間はかかるという。この病気の外来を担当する耳鼻咽喉(いんこう)科の稲村博雄講師は「けいれんから完全に解放されるには手術しかない。手術に踏み切れない人が、しばらくの間は注射で病気を抑えて様子を見る」と説明。

 ボツリヌス療法は去年十二月から始めたとして、「病気には個人差があり、症状が軽いため定期的に受診するだけの人もいる。よく検査した上で、程度によって患者自身が治療法を決めてほしい」と話す。外来診繚は月、水、金曜日の午前中に受け付けている。

 薬は強い毒素があるため、講習を受けた登録医師しか扱うことができず、県内で治療を受けられる病院はまだ少ない。治療機関については、「眼瞼・顔面けいれん電話情報センター」(東京)が相談を受け付けている。
フリーダイヤル0120(611094)。

眼瞼(がんけん)けいれん
目の周りが自分の意志に関係なく収縮する病気。ひどくなると、目が開けられなくなる人もいる。片側顔面けいれんは、顔の表情をつくる筋肉が過剰に収縮する病気で、目の周りからほおなどに、けいれんが広がり、顔の片側が曲がりこわばった状態になる。いずれも中高年の女性に多く発症する。硬化した脳底部の血管が、神経を圧迫して筋肉が過剰に収縮するとみられている。

ボツリヌス菌

食中毒菌の一種。菌が食品中で増えると、ボツリヌス毒素を出し、この毒素で食中毒が発生する。年間の患者数は全国で数十人。致死率が高い。