日本人上眼瞼の組織所見

井出 醇いであつし*1 山崎 太三 金井 英貴 三戸 秀哲 青島 周明*2 白澤 信行*3

*1 井出眼科病院 *2 青島眼科 *3 山形大学医学部情報構造統御学講座形態構造医学分野

※ 本論は臨床眼科学会、(株)医学書院のご好意により掲載しています。

要約
目的:日本人の上眼瞼の構造を、Whitnall靭帯まで含めて検索した。 症例は64歳と68歳の男性および90歳女性の解剖研究用死体3体6眼瞼である。6検体とも眼窩隔膜と上眼瞼拳筋腱膜の 合流部は瞼板上縁よりも上方であった。従来は眼窩脂肪と混合されていた線維脂肪組織が6検体すべてで眼瞼板上縁 の高さまで下降していた。このために上眼瞼拳筋腱膜は眼輪筋前隔膜部上方の後面には付着しなかった。 眼窩脂肪が上眼瞼縁近くまで下降する検体はなく、眼窩脂肪の下降脱出が 「腫れぼったい東洋人の眼 」の重要な 原因ではない可能性が高い。線維脂肪組織が存在し、このために上眼瞼拳筋腱膜が眼輪筋前隔膜部上方の後面に 付着できないために、開瞼時に分厚い前瞼前葉の上半分が眼窩内に引き込まれないで残ることが 「腫れぼったい東洋人の眼 」の1つの原因である。
Anatomical structure of lower eyelid of the Japanese

Atushi Ide*1 Taizo Yamazaki Hideki Kanai Hidenori Mito Shumei Aoyama*2 Nobuyuki Shirasawa*3

*1 Ide Eye Hosp *2 Aoyama Eye Clin *3 Dept of Anat and Structural Sci, Yamagata Univ Sch of Med

Abstract. Purpose:To study the anatomical structure of the upper eyelid of the Japanese including the Whitnall ligament. Material:Six eyelids from 3 cadavers from a female aged 90 years and two males aged 64 and 68 years. Findings:In all specimens, the confluence of the orbital septum and aponeursis of levator muscle was located superior to the upper edge of the tarsal plate. A fibroadipose tissur, which was clearly different from orbital fat, descended to the level of the upper edge of the tarsal plate. This structure prevented the aponeurosis of levator muscle from attaching to the posterior aspect of pers preseptalis of orbicularis oculi muscle. Conclusion:In no specimen the orbital fat descended to the level of upper lid margin, suggesing that the downward prolapse of orbital fat is mot the mafor cause of puffy eyelid of Orientals. The fibroadipose tissue would prevent aponeurosis of levator palpevrae muscle from attaching to the anterior palpebral lamina and would prevent upper portion of anterior paloebral lamina from being pulled into the orbit during lid opening. This process would be a major cause of puffy eyelid of the Orientals.

Rinsho Ganka(Jpn J Ophthalmol) 58(13):2331-2339,2004

緒言

上眼瞼の内部構造を組織学的に検査するときは、上眼瞼をどのレベルで(どのくらい上眼窩部の奥まで含めて)切断、摘出したかということが問題となるようになった。その理由は、大きく切り出したほうが眼瞼の内部構造ががよく理解できること、特にWhitnall靭帯*1)(以下、W靭帯)そのもまでのの構造や機能も上眼瞼の必要な検討項目に加えられるようになった*2〜4)からである。筆者らは、はじめは眼板上縁よりやや上方で切断できた標本で満足していたが、次に眼窩隔膜と上眼瞼拳筋膜との合流部まで、次に上方fornixの円蓋部まで出すこと、さらに上眼瞼拳筋が腱膜とMuller筋に分かれるあたりまでというように、いくつもの標本を作製してきた。このようないくつもの方法によって上眼瞼を切り出したうえで、内部構造を組織学的に検討した。

上述のようにして標本を作製することにより、上眼瞼の全体像につき、若干の新知見が得られたように思う。このなかには、特に現時点においてもなお東洋人の眼瞼の特徴として論争の的になっている項目についての組織学的な見直しも入っている。

対象と方法

解剖研究用屍体3体6眼瞼を使用した。

症例1(図1)は64歳男性、症例2(図2)は68歳男性、症例3(図3)は90歳の女性である。症例1、症例2はW靭帯付近で、症例3は眼科内容除去に準じて摘出した。

標本作製部位は上眼瞼の中央部で、矢状断切片とした。10%ホルマリン固定後、パラフィンに包埋、薄切後、ヘマトキシリンエオジン染色(HE染色)、ワンギーソン染色、マッソンのトリクローム染色、アクチン免疫染色などを施した。

なお、本研究は事前に山形大学医学部倫理委員会の承認を得て行った。

結果

以下は、症例1(図1)の所見を記載し、症例2(図2)、症例3(図3)については、表1にまとめて記載する。

上眼瞼拳筋(以下、拳筋)(図1のA)は、茶褐色の横紋筋線維からなるが、W靭帯(後述。図1のD)のトンネルを抜けるあたりのレベルで徐々に青色の結合織線維(図1のI)に置き換わり、ついには後者だけとなって名称を拳筋から拳筋腱膜(以下、腱膜)と変える。腱膜はW靭帯の下端から約5mm下降したところで、これも結合織である眼窩隔膜(orbital septum:以下、OS)(後述。図1の白星印およびC)と合流する。合流部(図1のF)にはある程度の幅があり、はじめはOSと腱膜の内層同士、次には外層同士が合流する。また合流部では個々の結合織線維が特に肥厚していて靭帯様であり、OSと腱膜の結合が強固であることをうかがわせる。合流部のレベルで上方fornixの円蓋部とほぼ一致する。合流部直下でブレンドしたOSと腱膜は再び浅層と深層に分かれて、さらにさらに眼瞼内を下降し続けるが、浅層は眼輪筋前隔膜部の筋束の隔膜(septa)に至るものと筋束の間を通過して眼輪筋層前面に達するものとがある。後者を腱膜の眼輪筋穿通枝(図1の白矢頭)と呼ぶ。穿通枝がある程度まとまって真皮にしっかり固定されると、そこを土台にして上眼瞼溝(図1の白*印)ができ、開瞼の際にそこが拳上され、その上に皮膚が残ると重瞼が形成される。

一方、腱膜の深層(図1のM)は、されに前後に分かれて前枝は眼輪筋前瞼板部の筋束の隔膜(septa)へ付くが、それはちょうど厚手の洗濯物を洗濯バサミが挟んで持ち上げるような構造である。また後枝は瞼板前面の下1/2〜2/3くらいの範囲に分散して付着する。瞼板前面の残りの部分は腱膜との付着が疎であって腱膜後面スペース(図1の黒矢頭)と呼ばれ、この間隙はされに上方の腱膜とMuller筋の間へとしばらく延長する。眼輪筋前瞼板部の最下端には睫毛の毛包で境された別の横紋筋の集塊があり、後方は瞼板に食い込むように存在する。これがRiolan筋である(図1のN)。Riolan筋への腱膜の分散はみられない。

Muller筋(図1のG)は平滑筋であって、症例1ではMuller筋は上部が切断されているので起始部は不明で、すでに拳筋の後面に厚く存在し、引き続き拳筋および腱膜の後面を下降して瞼板上縁に付く。瞼板上縁には、帽子を被っているように副涙腺の1つであるWolfring腺が認められる。

眼窩隔膜(OS)(図1の白星印およびC)は、眼窩口上縁あたりより起こって眼窩脂肪(後述。図1のH)と線維脂肪組織(fibroadipose tissue:FAT)(後述。図1のE)との間を真っ直ぐに下降してきて腱膜と合流する(前述)。合流部(図1のF)は、瞼板上縁(superior tarsal border:以下、STB)のレベルよりかなり上方である。欧米人において合流部よりOSの方向に2〜5mm上方で認められるという、OS+腱膜が直接眼輪筋前眼窩部の裏面に付着しているという所見*5)は認められない。

図1 症例1(64歳、男性)
A:上眼瞼拳筋、B:上直筋(症例3のみ)、Cまたは白星印:眼窩隔膜、D:Whitnall靭帯(上方W-L)、E:線維脂肪組織、F:合流部、G:Muller筋、H:眼窩脂肪、I:拳筋腱膜、J:瞼板、K:Wolfring腺、M:拳筋腱膜の眼輪筋前瞼板部および瞼板下方部分に付着する枝、N:Riolan筋、白矢頭:腱膜の眼輪筋穿通枝、白*印:上眼瞼溝、黒矢頭:腱膜後面スペース、黒太矢印:瞼板の前葉(褐色線)。

眼輪筋の筋束の向きは、前眼窩部は全上方から後下方へ、そのほかの部位は前下方から後上方へ葉状をなして重層する。前隔膜部の筋束は相対的にみて発達不良で、腱膜がこの間隙を通過しやすく、結果的に頑健が折れ曲がりやすくしている。これと反対に瞼縁に近い前瞼板部末端の筋束は、長さも厚みも重層のしかたも発達は良好である。

図2 症例2(68歳、男性)

眼瞼部の脂肪は大別して4か所に認められる。すなわち、第1にOSと腱膜とに包まれた眼窩脂肪(preaoponeurotic fat pad:PFP、腱膜前脂肪ともいう)(図1のH)であり、第2に眼輪筋の前眼窩部とOSとの間に存在する脂肪組織(図1のE)である。前者は内部に太い結合織のあまりみられない脂肪組織であり、後者は結合織が豊富にみえる。組織学的にも一見して区別できる。線維脂肪組織は症例1では眼窩脂肪よりやや下方まで認められる。第2は眼輪筋より浅層にあるいわゆる皮下脂肪である。これは眉毛から下方に向かうにしたがって漸減していき、眼輪筋前隔膜部のレベルではほとんどみられなくなる。第4は瞼板上半分のレベルでみられる腱膜線維間、または 「瞼板前 」脂肪沈着や筋膜後面スペース(図1の黒矢頭)内、またMuller筋線維間の脂肪沈着である。

図3 症例3(90歳、女性)

1:上直筋、2:上眼瞼拳筋、3:Muller筋、4:上方Whitnall靭帯、5:下方Whitnall靭帯。

上眼瞼の血管は、瞼板の上枝(peripheral arcade)はSTBのやや上方で腱膜後面スペース内のMuller筋の表面に、下枝(margine arcade)は瞼板の下1/3の高さで瞼板前面に認められる(図1のM)。副涙腺は、症例1では瞼板の上端に帽子を被ったように存在するのがWolfring腺(図1のK)であり、上方fornixの円蓋部に存在するというKrause腺については症例1では認められない。

最後にW靭帯(図1のD)であるが、症例1では拳筋の背側に縦断されている結合織があり、さらにその外側には横断された別の結合織として存在している。また拳筋の腹側には厚い黄色をおびた茶色のMuller筋線維が、その下には上部fornixに向う結合織が認められる。

表1 症例2、3の組織所見
  【症例2】 【症例3】
Whitnall靭帯のあり方 上方W靭帯の発達が良好で合流部近くまで厚い結合織が認められる 拳筋の背部に上方W靭帯を、腹部後方に下方W靭帯を認める
OSと腱膜の合流部 STB上方約5mmのところにあるOSも腱膜もともに厚い STB上方約5mmのところにある
FATのあり方 眼窩脂肪より下降しており、STB付近で腱膜に妨げられている 同左
合流部より上方でOSが眼輪筋前隔膜部へ付着しているか していない 同左
眼輪筋前隔膜部のあり方 筋束は太いが、筋束間の間隙が広い 前隔膜部と前瞼板部の境目あたりで筋束間の間隙が広い

孝按

まず症例が少なく高年齢者(60歳以上)のみであり、組織片を眼瞼の中央部からのみ切り出しており、閉瞼の状態で固定してものばかりといういくつものバイアスがかかっているが、ともかくそういう状態での評価であることを前もって断っておきたい。したがって筆者らは続報のMRIでこれらの欠陥を補う検討を行うが、その際の読影の根拠となるものを今回提供しているとも理解してほしい。

まずW靭帯の作用機序の新しい解釈について考えてみたい。すなわちW靭帯は拳筋筋膜の背側の一部が肥厚したもので、その作用機序をWhitnall*1)自身は解剖所見から拳筋の過剰な収縮を抑える制動靭帯と考えた。Andersonら*6)は解剖ならびに手術所見から拳筋の制動、支持の作用があること、また拳筋の収縮力を海岸の拳上力に変える支店となると考えた。Goldbergら*7)は、MRI所見からW靭帯が拳筋の動きについて前後に 「振り子運動 」をするのを認め、支点の固定が不十分なので、拳筋の作用方向を変える力はあってもAndersonらのいうほどには強くないと考えた。その後、根本ら*8)も日本人でGoldbargらの考えを追認した。

しかし近年、Codereら*2)、Lukasら*3)、Ettlら*4)は、W靭帯は組織学的に拳筋の背側に存在するだけでなく、拳筋の腹側にも存在することを証明した。Codereらは今までのW靭帯を 「上方W靭帯 」、腹側のものを 「下方W靭帯 」と呼んだ。そしてW靭帯は立体的に見ると拳筋をsleeveのように筒状にぐるりと取り巻いていると考えるべきであるとの認識を示した。これはDemerら*9)のプーリー学説を拳筋にも敷衍させたものといえる、筆者らの組織所見でも拳筋とMuller筋を挟んで上下に結合織を認め(図3、図4の4、5)、それぞれCodereのいう 「上方W靭帯 」と 「下方W靭帯 」と思われた。また、 「上方W靭帯 」よりも 「下方W靭帯 」のほうが量的に多く、かつ眼球赤道部より後方にずれて存在した。またsleeve上をなしているかどうかに関しては、解剖学的検討が多数行われ確認済み*2、3)であるが、筆者らも2眼瞼の解剖所見で 「上下のW靭帯 」が拳筋を輪状に取り巻いているような所見を確認できた。そのうえ 「上下のW靭帯 」は合体したあと拳筋を肥えて耳鼻側に延び、最終的には眼窩骨に固定されておりW靭帯は拳筋の筒状トンネルであるのみならず、拳筋を耳鼻側の眼窩骨に固定していると思われた。したがってW靭帯の作用機序は、組織学的にも第一義的には拳筋の収縮力を頑健の拳上運動に変換する働きにあるということができると思われる(この項についてはすでに一部発表済みで、別の論文で詳述の予定なので、ここではこの程度にとどめる)。

図5 眼窩隔膜・拳筋腱膜合流部(★)の模式図(井出)
1:Whitnall靭帯(拳筋腱膜の肥厚部)、2:拳筋腱膜、2´:拳筋腱膜の続き、3:眼窩隔膜の内層、4:眼窩隔膜の外層、5:眼瞼拳筋、6:拳筋腱膜、7:Muller筋、8:瞼板、9:眼窩脂肪、10:眼窩脂肪の皮膜、★:合流部。A:杠らの眼窩隔膜の深層、B:筆者らの水平切開部、緑色系(拳筋筋膜、眼窩隔膜の深層、拳筋腱膜、眼窩隔膜の外層)はいずれも結合組織。

次にOSと腱膜との合流部のレベルがどこにあるかについてであるが、この件は長く論争の的になってきた。ここに示す筆者らの症例ではすべて瞼板上縁より上方であって、欧米人と何ら変わるところはなかった。すなわりMeyerら*5)によれば欧米人では合流部は瞼板上縁の約2〜5mm(平均3,4mm上方)であったというから、洋の東西を問わず結果は同じである。筆者らの提示した症例に対して症例数が少なすぎるとか、死亡直後ではない、また高齢のため眼窩脂肪が萎縮してしまったのでもあろうという反論がありうる。この反論に対してすでにMRIによる検討も行っている*10)が、ここで引用するのはそぐわないので続報に譲る。ここではLiu*11)が 「アジア人であっても合流部は瞼板上縁より上方にあるという意見が最近は多い 」と記述しているのを紹介するのにとどめておきたい。

それでは合流部が組織学的にどうなっているか、筆者らは図5のようになっていると考える。すなわちOSは内外2層からなり、内層は合流部で反転してW靭帯へと向かうが、その間徐々に拳筋の筋膜に置換されると考える。一方、拳筋のほうからみると、拳筋はW靭帯のトンネルを過ぎた頃からしだいに筋成分を失って、ついに線維成分だけの筋膜となるが、これも内外2層が存在し、内層はOSの内層に続き、外層はOSの外層と一緒になり混ざり合って下降する。このOSの内外層と腱膜の内外装の合流部は特に結合織が豊富である。

ところでOSは腱膜との合流部で結合織が肥厚してみられる点に関して、Yuzurihaら*12)はこれをlower positioned transverse ligament(以下、lower PTL)と呼び、これに対して今までのW靭帯をhigher positioned T-L(以下、higher PTL)と呼んだ。すなわちyuzurihaらは合流部の豊富な結合織を一つの靭帯と解釈してW靭帯にhigherとlowerの2つがあると考えたのである。Yuzurihaらは下垂手術の際に合流部をOSよりの少し上方で水平横切断し、眼窩脂肪を上方にたくし上げると裏に横走する白い膜状構造物を認め、 「上眼瞼が腫れぼったく下垂している患者 」の99%に 「がっちりしている 」か、あるいは 「透明支持 」として存在するこの組織を切除しなければ瞼裂幅はうまく拡がらないと述べた。

筆者らも下垂手術には合流部でそこにある結合式に水平切開を加え、まずOSと腱膜を完全に切り離す必要があると考えているが、ただ筆者らが切開している部位は合流部から少し腱膜に寄ったほうで(図5の赤矢印B)、合流部を挟んでYuzurihaらとちょうど反対側を切開していることになる。筆者らのいう部分を切開すると脂肪皮膜に覆われた眼窩脂肪が顔を出すが、脂肪を上方にたくし上げると見える裏の白い扁平な構造物は筆者らの場合、拳筋筋膜の表面である。すなわち 「拳筋 」を前転(短縮も同じ)するために引き出す組織についての筆者らの考えは以下のとおりである。

  1. 拳筋は拳筋本体と周囲の筋膜よりなる。拳筋が腱膜に替われば腱膜と筋膜よりなる。しかし腱膜と筋膜は同じ結合織であるから区別はつかない。つまり合流部付近では内外2層の腱膜からなると考えたほうが理解しやすい。

  2. 一方OSも内外2層の結合織からなる、と考えると理解しやすい。

  3. 上眼瞼下垂の手術時に認められる、いわゆる 「White-line 」とは、OSの内層と腱膜の内層からなる。

  4. ゆえに、 「引き出す拳筋 」とは、要するに脂肪皮膜より外で、Muller筋よりは内の腱膜側の内層と外層とを一緒にした結合物である。

ところで老人性および不完全先天性下垂の症例に筆者らの方法で引き出した組織を検査した3例*14)の結果では後面にMuller筋が含まれており、腱膜とMuller筋間を性格に剥離するのは意外に難しく、Muller筋に切り込んでしまう印象を受けた。特に後天性下垂の成因として腱膜の 「瞼板からの剥離 」とか、 「腱膜の菲薄化 」がいわれているのを考えれば、病的に薄くなった腱膜だけをMuller筋から剥離して引き出すのが難しいことはある程度納得できるのではないか。そのため薄い腱膜を引き出して前転する困難さ、不確実さを選ぶよりは、西条のように 「white-lineに触らず、瞼板上縁から普通に存在する腱膜後面スペースに入ってMuller筋前面を出し、それ以上の手術操作は何も加えず、腱膜ではなく正常なMuller筋の方をtuckingしたほうが下垂矯正は確実容易である 」というのは1つの見識である。なお眼科領域からは坂上*13)の多くの発表を無視しえない。

合流部より末梢についても2層(前枝と後枝)からなると考えると理解しやすい。前枝は眼輪筋の前隔膜部や前瞼板部に向かう枝であり、後枝は瞼板前面の下1/2〜2/3あたりで付着する。ところで前枝にはwhitnall*1)のように前隔膜部や前瞼板部の筋束の隔膜(septa)間を穿通する枝があるという者と、Coolinら*15)のように筋束と隔膜(septa)に付着するだけで穿通枝はないとする者がある。症例1では、明らかな穿通枝(図1の黒歯車印)があり、それらが瞼縁近くの真皮に達し、そこで上眼瞼溝の基礎を形成している(図1の白*印)。一方、症例2、3でもやはり穿通枝が認められるが、直達的に集中的に真皮には至っていないし重瞼にもなっていない。また明らかに穿通枝のない場合は、拳筋の前枝は前瞼板部の筋束の隔膜(septa)の上方部分へ 「厚手の洗濯物を挟む洗濯バサミのように 」付着しているのを多数認める。筆者らの結論は、腱膜の穿通枝はある場合とない場合があり、また穿通枝があっても必ずしも重瞼となるとは限らないというものである。ここで重要なことは、日本人は一般的に信じられてきたようには単一民族ではないことで、人種的にも地理的にも東アジアの吹き溜まりのようなところなので 「日本人だからどうである 」と単純なことはいえないということである。

眼瞼部脂肪について最も重要なことは、線維脂肪組織の存在をはっきり認識することである。これは近年Meyerら*5)によって線維脂肪組織と命名されたもので、眼窩脂肪以外でほぼ同じレベルの位置、すなわち眼輪筋層と眼窩隔膜との間に存在する脂肪層(図1のE)のことである。この脂肪層は以前には眼輪筋に付属する結合織とみなされてきた。日本人では欧米人に比べてFATの存在が確かである。日本人の眼瞼が腫れぼったい特有の眼姿を示すのは、第1に豊富なFATが存在すること、しかもそれが瞼板上縁の少し下まで下降してきていることと、第2にこれも重要なことであるが、欧米人では眼窩隔膜+腱膜がSTBの2〜5mm上方で眼輪筋裏面に付着しているため*5)、開瞼したり上方視したりすると眼窩脂肪や眼窩隔膜が眼窩内に引き込まれると同時に皮膚も引き込まれて深い前頭眼窩溝が生ずるものが多いのに、日本人にはみられないことによる(これらの所見はこの後のMRIによる検討でも発表する)。

図6 Gray line 実はbrown line?

日本人の眼姿を問題にする時は、まず以上の2点を無視できないと思う。その次には眼窩脂肪の存在も無視しえないと思う。また眼拳上半分の皮下組織が厚いこと、皮下組織と眼輪筋との癒着が弱いことも挙げられる。最後に眼窩骨に対して眼球が突出していることも挙げられる。また、腱膜線維間、腱膜後面スペース、平滑筋線維内の脂肪沈着も無視しえない。なお、これらの全体的な検討にはMRIや肉眼的解剖、手術時所見、臨床症状を対比させることが必要なので、最終的な結論は続報に委ねる。

緑間部には欧米人ではgray lineが存在するといわれるが、日本人では色素沈着のような褐色線(brown line)は認められるものがある(図1の黒矢印、図6)。そこが瞼板の前端にあたり、それを目印として外相による複雑な瞼縁裂傷を修復したり、また眼瞼を前後両葉に2分していろいろな形成手術を行うときの目安として重視されてきた。Wulcら*16)によれば緑間部のgray lineは皮下のRiolan筋によって決定されるといわれる。日本人では特にラタノプラストの点眼と関係なく色素沈着のような褐色線を示す者がいる(図1黒矢印および図6)。この褐色線が皮下に存在するRiolan筋によってできるかどうか日本人のevidenceはない。ともかく緑間切断をするときは、gray lineそのものよりも眼板の前端を注意深く見つけてそこで切開したほうがよいとおもわれる。眼瞼の皮膚はマイボーム腺開口部を超えて後眼瞼縁にまで達している。そのため開口部で角化した表皮が閉塞を起こす原因の1つになることがあるといわれるのにはうなずけるものがある。

結論

日本人であっても眼窩隔膜と拳筋腱膜の合流部の最下店は瞼板上縁より上である。日本人では眼窩脂肪のほかに、繊維脂肪組織(FAT)と呼ばれる脂肪層が眼輪筋とOSとの間に介在するだけでなく、それが眼板上縁のレベルまで下降してきている。FAT下降のため、眼窩隔膜+腱膜が高い位置で眼輪筋に接することができず、開眼したとき日本人には深い前頭眼瞼溝ができない。

腱膜とOSとの合流部は結合織に富む。Yuzurihaらはこれを1つの靭帯とみなしている。腱膜には眼輪筋の穿通枝も存在し、それが上眼瞼溝の基礎となり開眼時に重瞼をつくる。しかし穿通枝があれば必ずしも重瞼ができるというものではない。腱膜の前枝の末梢は、眼輪筋前瞼板部の筋束の隔膜(septa)上部へ 「厚手の洗濯物を挟む洗濯バサミ 」のように接着しているのが目立つ。

日本人の緑間部には欧米人のgray lineに相当してblown lineが認められる者もいる。

ご校閲いただいた山形大学医学部第1解剖内藤輝教授に感謝申し上げます。

本論分の一部は第57回日本臨床眼科学会シンポジウム13 「眼瞼の内部構造に魅せられる 」で発表した。

文献
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(臨床眼科 58(13):2331-2339,2004)