
1998年5月にCallahanとBeardの共著のPtosis(第4版)を翻訳・出版しました。
東京医科歯科大学眼科の清澤 源弘先生がこの本の書評を書いて下さいました(『日本の眼科』70巻2号231頁1999年)ので、転載いたします。
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この度,井出 醇先生の手でBeardの眼瞼下垂の第4版が翻訳された。そもそもこの本は,Michel Beard博士によって1969年に初版が著され,Michael
Callahan博士によって1990年にAlabama州の出版社から第4版が出版された成書の翻訳である。多くの手術が為されているこの領域であるのに,全体を見渡せる思想性のある優れた本の新たな出版が無く,井出 醇先生はあえてこの第4版の翻訳に踏み切られたとのことである。
原著者は,訴訟好きなアメリカ社会を見て,“平均的な患者が惨めな結果に耐えきれず,ついには憤慨して訴える様になる限界を述べる”といってこの本を始めている。彼は,“多くの患者が正しく動く手技よりは外見の整った解剖学的な修復を好む”と考えている。このことに関連して,眼瞼下垂についての一般的考察(第7章〕の中で,特にinformed
consentに触れ,患者あるいは両親は,眼瞼下垂の手術結果について非現実的な期待をしがちであり,患者と術者が手術後に直面する可能性のある問題をあらかじめ話し合っておくことが,その事態に至ったときに患者側と相談を始める為に最低必要なことであることを強調している。
この本では,眼瞼下垂の分類から説き起こしているが,著者は従来行われてきた先天性か後天性かという分類を廃し,眼瞼拳筋発育異常,腱膜性眼瞼下垂,神経原生眼瞼下垂,機域的眼瞼下垂,そして見かけの眼瞼下垂を分ける分類を採用した。
これは,選ばれるべき手術の術式がこの分類に依存するからである。我々が臨床の場で最も頻繁に対応を迫られるのが眼瞼拳筋発育異常に属する眼瞼下垂である。その答えが,眼瞼拳筋発育不全性下垂の手術(第8章)の中に記されている。彼は3mmを中等度とする下垂の程度と8-12mmを良好とする拳筋機能を二つの重要なファクターとし,その各々の評価に基づく手術法の選択と手術量の定量を示している。この表は本邦でも眼科学大系などに広く引用され,よく知られているものである。
またこの本には,私が今まで知らなかった多くの術式を含む様々な眼瞼に対する手術法がそれぞれの病態に対応して豊富な図と写真を件って記載されている。神経眼科を扱っているとしばしば対応を迫られる三叉神経と顔面神経の麻痺による兎眼で,角膜障害の著しいものに対して行われる瞼裂縫合もその一つである。以前ある先輩にこの術式を指導していただいたが,今回この本を通読してその原典がここにあったことを知り驚いた。
この本は,新しい本の洪水の中でも輝きを失わない名著である。眼瞼下垂の手術を手がける際に今一度開いて見ることをお薦めしたい本である。
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